仕事場と住まいをゆるやかに繋げた新しいスタイルのSOHO
自宅を仕事場とする家族にとって、仕事をする場所と住空間のどちらも機能させることは理想ですが、これをカタチにするのはなかなか難しいものです。我が家の中にパブリックなスペースを取り入れ、プライバシーはしっかりと確保したい。それでいながら、それぞれがしっかりと機能する家でありたい。そんな住まいづくりを目指した、音楽家家族の住まいの成功例をご紹介しましょう。
東京都・K邸
家族構成/五人家族
設計/黒崎敏
敷地面積/212.87m² (64.51坪)
延べ床面積/188.84m² (57.22坪)
構造/木造軸組工法(一部RC造)、地上2階建て
仕事場と住まいを両立する住まいのポイントとは?
- ● 生活の一部である音楽の仕事と家族との暮らしを完全に分離しない。
- ● 仕事場と居住部分をゆるやかに繋げる。
- ● プライベートのスペースはきちんと確保する。
- ● 開放的な空間に光と風をとり込み、生活と仕事に豊かさをもたらす。
仕事と住まいを両立できるスタジオ併用の家を新築する
Kさんご夫婦は揃って音楽を生業とされています。
ご主人はバンドネオン奏者、奥様はバイオリニストであり、近くに住むご両親にサポートしてもらい、3人の子供を育てながら音楽活動を続けてきました。
仕事と子育てを両立させるのは大変なこと。そこへたまたま、ご実家の隣地が売りに出たのです。これをチャンスと、この土地を購入して家を建てることになったKさんの希望は、バンドの練習やレッスンができるスタジオ併用の住まいでした。
24時間切り離せない音楽と家族の営みを一体化させたい
一日中音楽のことから頭が離れず、音楽が生活の一部であるKさんは、家族と暮らす住まいと仕事場のスタジオは完全に切り離さない設計を希望。
どちらもゆるやかに繋がるという難題が、まずベースとなりました。それに加えて、頻繁に訪れる仕事関係の来客が生活空間を通ることがないように、プライバシーの確保も必須でした。
また、以前の住まいでは圧迫感があったという低い天井ではなく、吹き抜けのある天井を希望したのも、開放感だけでなく家族の気配が感じられるようにとの親心がうかがえます。2階にある子供室も吹き抜けに面しているので、1階のLDKにいながら子供たちが遊ぶ様子が伝わってきます。
中庭でゆるやかにセパレートしたスタジオと居住スペース
Kさんからの要望を受けて、
建築家コンペで3人の建築家の中から選ばれたのは、Kさんの希望を反映させながら、光を取り込む中庭を境にスタジオとLDKを配置した、黒崎敏さんのプランでした。
1階の南側にはRC造のスタジオを配置し、周囲からの目隠しに。光と風を取り込んで、家全体に明るさをもたらす中庭とガラス張りの階段室を挟み、北側にはLDKが配置されています。スタジオから玄関、トイレへ居住スペースを通らずに行けるように設計されているので、プライバシーにも配慮した住まいに。また、スタジオとLDKの距離を近くする配置により、仕事関係の来客があった時に、キッチンからお茶を運ぶにも便利です。
LDKの横の階段室から2階にある子供室と寝室へ。2階にはインナーバルコニーが設けられ、中庭の吹き抜けを中心に回遊できるゆったりとした空間と、リビングの吹き抜けがあいまって、明るい光と風に満ちた空間が広がります。
大空間に構成された住まいとスタジオの両立で仕事も暮らしも豊かに
「天井の高いダイナミックな空間がいいですね。開放的なLDKで『あ〜!』と言いながら大の字になってくつろげるから気分がいいですよ。」とご主人。
以前住んでいた古い一戸建ては、天井が低くて仕事で疲れて帰ってきてもストレスが溜まっていた、というから、なおのこと開放感が気に入った様子。
また、リビングには
ガス温水床暖房を設置しているので、冬でも部屋中がおだやかな暖かさで包まれます。ほかの設備の面でも、キッチンのコンロやヒーターなど、ガスを導入した住まいを希望したKさん宅は、建築家の黒崎さんの提案で
エコウィルも導入し、より快適で環境にやさしい暮らしに一役買っています。
そして、念願のスタジオも音響へのこだわりが叶い、防音仕様ながら納得のいく響きが実現できたようです。スタジオはガラスブロック壁やトップライトを設えて、光をたっぷり採り入れたのも正解でした。
「音楽スタジオというと、窓がないコンクリートに囲まれて閉塞感のある造りも多いでしょう。でも、曲を考える作業はアイデアがまとまるまでに時間もかかるので、太陽の光が柔らかく入るぐらいがちょうどいい。家族の気配も感じられますからね。」
新たに作られた収納によって楽譜がきちんと整理されたのも、実は様々な楽器の複雑な音響が織りなすオーケストラ伴奏の作曲に、とてもいい影響を与えているそうです。
家づくり成功のポイント
仕事場と住まいの両立というと、どうしてもパブリックとプライベートのせめぎ合いになると同時に、それぞれの機能を追求しがちです。仕事場と住まいをきっぱり2分しつつも「双方をゆるやかに繋ぐ」という構成を、中庭と吹き抜けによってゆるやかに繋ぎ合わせたことにより、家に光と風も引き込んでいます。音楽が仕事であり、生活の一部であるKさんご夫婦にとって、その自然の恵みが、どちらにも豊かさをもたらしたのではないでしょうか。
建築コーディネート OZONE家づくりサポート
写真 大槻 茂